私たちのめざす看護

私たちの看護

2017.05.08

穏やかな時間

がんの患者さんは、長い治療を受けていく中で、人生の締めくくりをどこかで 意識しながら生活しています。ふとした瞬間、「桜が咲く頃には、もう僕はいな いな」「来年の春、もう、この桜は見られない。この気持ちは、元気なあなたに わからいわよね」と、心の奥底にある思いを語られることがあります。このよう な言葉を看護師に告げられたとき、どのような言葉を返したらよいでしょうか。 「そんなことないですよ」「そんなこと言わないでください」と励ましの言葉を かけたり、何も言えずに気持ちを沈ませナースステーションに戻ってきたりする 看護師は少なくありません。
しかし、がんの患者さんは、このような言葉を語られるとき、私たち看護師に気の利いた言葉をかけて欲しいわ けではなく、来年の桜を見られるようにして欲しいわけでもないのです。青い空を背景に見える満開の桜を、同じ 視線で見ること、同じ風を感じること、その時その時の思いを共有することが、患者さんにとって穏やかな時間に なるのです。看護師の励ましの言葉ではなく、患者さんの思う方向を否定せずに一緒に見つめることが、寄り添う ことであり、緩和ケアのひとつとなるのです。人生の締めくくりを語る患者さんの気持ちは、すべて理解すること はできませんし、そのような言葉を投げかけられたときの看護師の気持ちは、楽なものではありません。しかし、 その言葉を投げかけられた看護師は、患者さんから見て、誠実に向きあってくれる相手として存在し、入院生活の 中で支え続けてくれる大切なひとりとなるのです。
日々、病棟で勤務する看護師たちは、がん患者さんと接する機会が多く、患者さんのひとつひとつの言葉に衝撃 を受けたり、つらかったり、悩むこともあります。私は、臨床で勤務する緩和ケア認定看護師として、緩和ケアを 指導するとともに、がん患者さんと真摯に向き合う看護師たちに、看護師ひとりひとりの存在そのものが、患者さ んの穏やかな時間になるということを伝え続けたいと思います。

緩和ケア認定看護師 藤井すみれ

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