新人が語る心に残る看護場面
2020.10.30 声をかける
入職して3か月経ったころ、Aさんを受け持ちました。Aさんは転落により足を骨折し、四肢麻痺もあり不自由な毎日を送っていました。痛みもとても強く、腕を上げることも手で何かをつかむことも、足を動かすことも難しい状態でした。私たちは体位変換や排泄ケアなど日常生活動作全般にケアを行っていました。Aさんは自分の状態やこれからの不安も強かったためか、笑顔もなく無表情のことが多い印象でした。
私はどうすればAさんが笑顔を取り戻してくれるのか、日々の関わりから何かできないのかと葛藤していました。その中で見つけたのが「声掛け」です。ただ声をかけるだけでなく、「ほめる声掛け」を積極的に行ってみました。清拭の時、少しでも腰を上げたり上げようとするAさんの意思がみられたらねぎらいの言葉をかけ、リハビリが終わった後は必ず「お疲れさまでした。」と声をかけました。するとAさんは口角を上げて「頑張りました。」と必ず返事をしてくれるようになりました。そして月日が経ち、Aさんは徐々に可動域が広がり、車いすに乗車して食事ができるまでになりました。離床時間も増え「今日は2時間も座れましたね。すごいですね。」と声をかけると、「まだいけそうです。」と言葉も返ってくるようになりました。その後、Aさんは退院しました。
それから約2か月後、Aさんが手術目的で入院されました。その時、Aさんはわざわざ車いすで私が担当している部屋の近くまで来てくれたのです。「久しぶりです。私、こんなに動けるようになりました。車いすに移るのも一人でできるようになったんですよ。今回も頑張ります。」と、前回の入院中とは比べものにならないくらいの明るい笑顔と声のトーンで話してくださいました。私も思わず「すごいですね。本当によかったです。」と興奮して話してしまいました。
看護師として働き、患者さんの回復過程を見て初めて心から嬉しい気持ちになった体験です。Aさんを通して感じた感情を忘れずに、今後も回復のために日々頑張っている患者さんをサポートし、寄り添うことができる看護師になりたいと改めて思いました。