新人が語る心に残る看護場面
2019.03.27 後悔したこと
ある日、フリー業務をしていた私はリーダーさんに、眼科で入院中のAさんのIC(インフォームド・コンセント)に同席してほしいと頼まれました。ICする部屋まで車椅子でAさんとAさんの奥さんをお連れし、医師が到着するのを待っていました。
待っていると奥さんとAさんは「家に帰るなら車椅子を用意しないとね。」「嫌だよ。恥ずかしいから。」「でも見えないから危ないじゃない。」など退院後の生活について話し始めました。そばで聞いている私に「明るさは分かるけど全く見えないんだよ。今度、孫の結婚式があって『お寿司を握ってね』と頼まれているんだけど、結婚式も行けないかな。」「昔はね、山登りしたんですよ。富士山も。そこから見える景色がきれいでね。もう山登りもできなくなるね。」と話してくれました。奥さんと「でも、そういう景色とかいっぱい見てきて、頭に残っているでしょ。忘れないようにしなくちゃね。今までのことはちゃんと頭に残っているのよ。」「そうだね、残っている。沢山のこと経験したからね。」と続けました。お二人の会話に私は「そうなんですね」とうなずくことしかできませんでした。
医師からの病状説明は、これ以上の視力回復は望めないという内容でした。「もう家の方は手すりも付けたし、準備は大丈夫です。いつでも帰ってきて。」と奥さん。「うん、もう覚悟していましたから大丈夫です。家に帰ろう。」とAさんの退院が決まりました。
奥さんは買い物に寄るとのことで、お部屋には私とAさんだけで帰りました。「毎朝、手を顔の前に持ってきて、見えるかやってみているんです・・・。」そう話すAさん。覚悟を話すAさんではありますが、どこかで視力の回復を望んでいたのかもしれないと思いました。“全盲”。今まで見えていたのに、何も見えなくなったということがどれだけのことなのか、その時気づきました。
もっと何か声をかけられたのではないかと後悔し、部屋に戻りました。