新人が語る心に残る看護場面
2018.08.01 人生に関わる仕事
Aさんという末期癌の患者さんがいました。Aさんは終末期にさしかかっており、数日後に転院を予定されていました。私はいつものように忙しく業務をこなしながら、Aさんの寝衣を整えている時でした。いつものようにうつろに正面を見ながら「こんなに良くしてくれてありがとう。死んでも忘れません。」とAさんがポツリと言いました。突然のことで私は驚きました。Aさんを受け持つのはこれが2回目でした。Aさんのために私が出来た事なんてほとんどありません。「いえいえ、そんな、私は何も・・・。Aさん大げさですよ~。」と、とっさにこんな返事しか出来ませんでした。ベッドサイドを離れた後『私なんて技術も未熟なのに、どうしてそんな言葉をくれたのだろう?』と申し訳なく感じていました。しかし同時に嬉しさもありました。
翌日、私は夜勤でした。業務に入ってまず目に飛び込んできたのは、明らかに状態が悪くなったAさんでした。挨拶をしましたが返事はありませんでした。状態はどんどん悪化し、ご家族に見守られながらの最期を迎えました。私にとって初めて、目の前で人が亡くなるという経験でした。
私は悲しむ暇もなくその後の対応に追われ、Aさんの死を実感したのは出棺の時でした。朝方4時、辺りがぼんやりと明るくなりヒグラシの声が響く中、最期にAさんを見送ったことやご家族が泣くのをこらえているような表情、すべてが忘れられません。今でも、私にもっと出来ることがあったのではないかと思います。患者さんの人生に関わらせていただいているということを心から実感した出来事でした。