私たちのめざす看護
私たちの看護
2020.10.30
「痛み」への対応で大事なこと
私はがん性疼痛看護認定看護師ですが、私が所属しているのは外科病棟ということもあり、手術後の傷の痛みなどにも専門知識を活用して対応しています。「痛み」への対応は鎮痛薬が主になりますが、その人の痛みの種類や強さをアセスメントし、痛み止めの選択を行います。今感じている痛みにどんな痛み止めが有効で、剤形を含めてどんな痛み止めが使えるのかを患者さんに説明して納得してもらうように心がけています。中には痛みが激しく、「何でもいいから早く痛みを止めてほしい」とおっしゃる方もいます。迅速に対応することはもちろんですが、そんな時でもなるべく即効性があり、副作用が強く出ない痛み止めを提供する必要があります。もちろん痛み止めを使って痛みが楽になれば終わり、というわけではありません。痛み止めの効果とともに副作用、使用した痛み止めの満足度や、次回痛み止めが必要なときの対応方法なども確認が必要です。
大腸を手術した患者さんで、数種類の痛み止めを使ってもなかなか傷の痛みが治まらない方がいました。手術の傷も検査の結果もよくなっていましたが、「こんなに痛いのに動けるはずがない。もっといい薬はないのか」と言われました。前述したように、痛みの種類や強さをアセスメントし、なるべく副作用の少ない痛み止めを提供することが求められます。今回もそのように対応しながら何度か痛み止めを変更していきましたが、患者さんには効果が得られないようでした。結論から言うとその患者さんは、手術後何日も個室で療養され、人との関わりがもっとほしかったようです。スタッフとしては傷も検査結果もよくなって痛みは軽減しているはずなのにと考え、活動を促しても同じようなことを言い続ける患者さんに関わりづらさを感じ始めました。そうするうちにその患者さんの部屋に行く頻度は減ってしまいます。患者さんは寂しさと不安がつのり、痛みを感じやすくなってしまったのです。患者さんとスタッフや医療者のお互いの感情がすれ違ってしまった症例です。
このように、「痛み」への対応は痛み止めだけではありません。身体的な苦痛だけでなくトータルペインとして精神的・社会的・霊的な苦痛を確認することも重要です。同じ痛みを持っていたとしても対応方法は同じではありません。さまざまな要因で痛みを増強させ、痛みを感じやすくしてしまうことを念頭に置かなければいけません。そのため患者さんと接する時は、お互い感情のある「人と人」ということを常に意識します。そして、それまでの患者さんの経過や人となりに配慮した対応が、さらに信頼関係を強くすると考えています。
患者さんが痛み止めの効果を実感し、こちらの対応に納得してもらえれば、その表情はずっと穏やかになり、とても優しい笑顔になる方もいらっしゃいます。そして感謝されることもあります。その笑顔と感謝の言葉は、私の看護師としてのモチベーションを高め、これからの活動の意欲に変わります。
私は今、薬剤に関する知識だけでなく、「痛み」に対してのケアの質を向上させるためにタクティールケアを勉強しています。
どんな痛みであっても、痛みを感じているのはその人であり、その痛みを理解しようとする姿勢を持ち続けることが一番大事なことだと日々感じています。
がん性疼痛看護認定看護師 木暮孝志
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