新人が語る心に残る看護場面
2020.06.05 言葉では伝わらないこと
私は、ある外国の方の手術に外回りとして入りました。その患者さんは日本語を片言で話し、日本語の聞き取りも難しい方でした。手術当日、車いすで手術室に入室されました。ベッドに座っていただくとき、私は日本語で「ベッドに座って下さい」と伝えたのですが、患者さんは「わからない。日本語、わからない。」とおっしゃいました。患者さんはベッドに手をつき、それを支えに立っていたのですが、足のふらつきがみられ始めました。私はこれ以上立位を維持することが難しいと思い、とっさに「Sit down.」と患者さんへ言いました。患者さんは「Sit…. OK」と話し、ベッドに座りました。私は患者さんの日本語が通じない状況や、立位を維持することが難しい中で焦って出た言葉とはいえ、命令形で患者さんに話してしまった。患者さんとの信頼関係に影響してしまうのではないか、と思いました。しかし患者さんは、入室された時より表情が穏やかになり、私を見ていました。また「枕が低い。高くしてほしい。」など、お互いに片言の日本語、英語で話をしました。
後日、患者さんはもう一度手術をすることになりました。再び私もその患者さんの手術に、外回りとして入りました。入口まで患者さんを迎えに行くと、私を見て表情が明るくなったのがわかりました。私のことを覚えていてくれたのだ、とうれしくなりました。
手術室では一人の患者さんに関わる時間が短いです。しかしその短い時間の中で、患者さんと信頼関係を築くことが大切です。私は今回の経験を通して、言葉が伝わらなくても懸命に患者さんのことを思って接することで、それが患者さんに伝わり良好な関係を築くことができるのだ、と改めて感じました。