新人が語る心に残る看護場面
2020.10.12 湯たんぽ
「湯たんぽ交換してもらえる?」検温で患者さんのもとへ行くと、ぬるくなった湯たんぽを受け取りました。私はまだ、ほかの患者さんの検温を終えていなかったので、受け持ちの方の検温を全員終えてから交換しようと思い、その患者さんに頼まれた湯たんぽの交換を後回しにしてしまいました。しかし検温だけでなく検査出し、点滴の更新などをしていると、湯たんぽの交換を頼まれてから1時間近く経過していることに気づきました。私は患者さんを長くお待たせしてしまっていることに、焦りを感じすぐに湯たんぽを用意して患者さんのもとへ行きました。しかし患者さんのベッドには、すでに新しい湯たんぽがありました。「ほかの人に頼んだの。待ってたんだけど、忘れられたんだと思ってね。」と、少し苛立っているようにおっしゃいました。私は患者さんが寒い思いをしたことや長く待たされたことだけでなく、「忘れられた」ことが最も患者さんにとって辛かったのではないかと思いました。私にとって、その患者さんの頼まれ事は数あるやらなくてはならないことの一つですが、患者さんにとっての頼み事はたった一つです。その頼み事は、私と患者さんのたった一つの約束だったのです。私はその約束を果たせなかったことで、患者さんからの信頼を損ねてしまったことに、悲しく思いました。すぐに対応できないとわかった時点で、いつ頃ならお渡しできるのかを伝えていれば、新しい湯たんぽはいつ来るのか、忘れられたのではないのかと不安に思うこともなかったのです。
その日以来、患者さんから頼まれたことがあれば、後回しにせずすぐに対応できるように心がけています。もちろん対応できないこともありますが、その時には患者さんにきちんと伝えたり、他のスタッフの協力を得たりするように努力しました。
後日、この湯たんぽをお渡しできなかった患者さんから「あなたに頼むと絶対やってくれるから。いつもありがとうね。」と声をかけていただけました。信頼される看護師に一歩近づけたようで、とてもうれしく思いました。