新人が語る心に残る看護場面
2020.10.30 人としての尊厳
Aさんは糖尿病ケトアシドーシスで入院し、下血によりICUへ入室されました。下血が続き、循環動態が不安定な状態が続いていました。ある日、私が日勤で受け持つこととなりました。申し送りが終わり、朝一番でAさんのもとへ行き状態を確認に行きました。掛け布団をめくると、下肢が下血で汚染されたままでした。私はすぐに夜勤の受け持ち看護師へ、なぜ、このような状態なのかを確認すると、「体位が少しでも変わると、血圧が60台まで下がった。Aさんの更衣をしたくてもできなかった。」と話していました。しかしAさんは「また出てるよ(下血のこと)。どこも痛くないのに。」と訴えました。私は「気持ち悪いですよね。今は身体の状態が思わしくないので、落ち着くまで待っていただけますか。落ち着いたときにきれいに拭かせていただきます。」と伝えました。Aさんは「もう家に帰りたい。家族に会わせてくれ。」とさらに訴えました。私はAさんの気持ちをリーダーへ報告しました。Aさんの状況から急変する可能性も高かったため、医師とも相談し、急遽ご家族へ連絡することとなりました。しかしご家族が到着する前に、Aさんの状態は急変しました。ご家族到着後医師よりICを行い、DNARの方針となりました。Aさんの最期をご家族が看取ることになりました。Aさんのご家族は毎日面会に来られていました。しかし今のAさんは、意識がありません。私は、ご家族は突然の状況に衝撃を受けていると感じました。そこで私は「Aさんに何かしてあげたいことはありますか。お顔を拭くなどはいかがですか。」と提案しました。ご家族も了承され、Aさんのひげを剃り、顔を拭き、一緒に保清をしていました。そして奥様が「手や足も拭いていいですか。」と布団をわずかにめくったのです。そこで奥様は下血で汚染された状態を目にし、「これは…。」とつぶやきました。私は「すみません。Aさんが少しでも体の向きを変えると血圧が低下している状況です。体の向きを変えることも危険な状態なので、替えられていません。申し訳ありません。」と伝えました。奥様は、「そうですよね、しかたないですよね。」とおっしゃいましたが、とても悲しそうな表情でした。私は「Aさんも、汚れていることをとても気にされていた。どうにかしたいのに生命のことを考えると、してはいけないのか。」と、とてももどかしい思いを抱きました。
間もなくして、Aさんは息を引き取りました。私はエンゼルケアで、どうしてもできなかった下血で汚染された下肢を念入りに洗わせていただきました。ご家族はきれいになったAさんの姿を見て、「よく頑張ったね。綺麗にしてもらってよかった。今ではこんなに穏やかな表情をしています。寂しいけれど、見送れます。」と安心したようにおっしゃいました。
私はこのとき、患者さんやご家族にとって生命よりも大切にしてほしいことがあるのではないか、と思いました。またその思いも、言葉で表出できることばかりではないと感じました。
私はこの経験から、看護師として患者さんやご家族の思いに気づき、相手の立場になって考え、最期まで「人としての尊厳を守ること」を大切にしていきたいと思いました。そのためにも、日頃から患者さんを理解すること、寄り添う姿勢を心がけていきたいと思いました。