新人が語る心に残る看護場面
2021.09.03 傾聴
日勤独り立ちをしたばかりの頃の話です。検温のため、Aさんのもとへ行ったとき「退院の後に、他科の受診があるんだ。僕は仕事も忙しいし、なんとか入院中にできないものか。」と困り顔で相談をされました。私もAさんが忙しい方だということは、これまでAさんとお話をしたときに知っていたので、何とかならないものかとAさんの都合や仕事に対する思いを聞いて、先輩に相談しました。しかし入院中の他科受診は緊急性がないと難しく、Aさんのご希望には沿えませんでした。その旨をAさんに伝えると、Aさんは残念そうに「そうなんだね。」とうなづいてから、またご自身のお仕事に対する思いを話してくださいました。私はAさんの話を聞いて、できないことではあるけれど、もっとAさんに納得いただける話し方や対応ができたのではないか、私にはAさんの話を聞くことしかできないのかと申し訳なく思いました。またそれと同時に、Aさんの対応に時間を要して時間内に業務が終わらず、他の受け持ち患者さんやフォローしてくれた他のスタッフに迷惑をかけたことに対しても、申し訳なくて無力感でいっぱいになってしまいました。
この出来事から数週間後、Bさんの元に検温に訪ねた時のことです。いつものように検温させていただいて退室しようとしたとき、Bさんが「待って」と私に声をかけてきました。私は何か足りなかったのかな、必要なことがあるのかなと思いながら振り返ると、Bさんは笑顔を向けてくださっていました。「あのね、僕はこの前〇〇号室にいたんだけどね、その時のあなたの対応に感動しちゃって。あの時、Aさんがお部屋にいたでしょ。Aさんの長いお話を聞いて受け止めて、対応も早かった。僕はそれに感動して妻に話したんだ。そうしたら本人に言ってあげるといいって言われてね。あなたまだ1年目なんでしょう。これからも頑張ってね。」とおっしゃってくださいました。私は、自分が無力感を感じたAさんとの関わりのことだとわかりました。まさかそんな風に思っていただけるとは思わず、嬉しくて何度も「ありがとうございます。頑張ります。」とBさんに伝えました。それと同時に、やはり傾聴も大事なことなんだと実感し、少しでも自分の遅さに気をとられたことに恥ずかしさを感じました。
これからもこの出来事を忘れず、患者さんの思いを傾聴し、精いっぱいその方のお気持ちに寄り添えるよう努力していきたいと思います。