新人が語る心に残る看護場面
2022.09.30 私の役割
トラックの事故で救急搬送された、20代のAさんとのことです。病棟に入院されたときは、人工呼吸器を装着していたため会話することができませんでした。さらに腸を半分以上失ったため、毎日鎮静薬を使用しながら医師2人でAさんの半身を洗浄する処置をしていました。また食事は経腸栄養のみ持続で投与していました。
Aさんの生活はずっとベッド上です。声を出して自分の気持ちを伝えることはできませんでしたが、首や目線を動かしたり、紙に「暑い。扇風機を回して。」「ベッドの頭を上げて。」「痰とって」と書いたりしてコミュニケーションをとっていました。そしてナースコールは多い時には数分おきにありました。私たち看護師はAさんだけに対応はできません。他にも患者さんが多く入院されています。Aさんの要望を、すぐにすべて叶えることはできない状況もあります。
その後人工呼吸器が外れ、ゼリーやアイスといった経口食も摂れるようになってきました。しかしまだ腸管がうまく機能せず嘔吐を繰り返してしまうようになり、禁飲食の指示が出てしまいました。20代の若さでずっとベッド上で、毎日処置を受けて自分が欲しいものも手に入らなくなった状況もあり、Aさんはイライラを募らせていました。
ある日、私がAさんを受け持たせていただいた日のことです。いつものように処置の準備をしていると、Aさんは「どうしてもお菓子を食べたい。すこしだけでもいいから。医者を呼べ。」と何度も訴えてきました。医師が集合し、処置を始めるために鎮静剤を投与するときも「じゃがりこ、じゃがりこ」と声に出して目をつむり、鎮静状態となり処置が始まりました。そして処置が終了し、Aさんが覚醒する時に医師がじゃがりこを持ってきたのです。「1か月に1回、それも5本までね。」と医師は伝え、Aさんの顔の前に出したのです。その時のAさんの笑顔と「え!?」という驚いた表情が印象的でした。私は今までAさんの辛そうな表情しか見ていませんでしたが、Aさんの幸せそうな表情を見て、私はとても嬉しくなり、胸が熱くなったことを今でも忘れられません。
私は医師として指示をだすことはできません。しかし患者さんの希望を医師に伝え、それが叶えられるよう連携することができます。私は看護師としての役割・関わりを改めて考えさせられました。